いま、憲法が危ない。

最高裁元判事、「いま、司法権が頑張らなくてどうするのか」と証言

最高裁元判事、「いま、司法権が頑張らなくてどうするのか」と証言

安保法制違憲北海道訴訟 札幌高等裁判所

                      弁護士 高 崎  暢

1 2020年9月18日、札幌高等裁判所802号法廷は活気に満ちていた。コロナ禍の影響で、昨年の11月15日に控訴審第一回口頭弁論が開かれた後、3月、5月の期日が中止になっていたので久しぶりの法廷ということもあり、傍聴席も満杯で、原告や傍聴席の支援者の、高裁では必ず勝利するという意気込みを感じた。

この日、北海道訴訟として第一審を通して初めて尋問が行われた。また、濱田邦夫最高裁元判事が全国の安保法制違憲訴訟のなかで証言台に立ったのも初めてのことである。 

2 北海道訴訟は、2017年1月に提訴され、毎回の弁論期日で複数の原告の意見陳述を実現させ、原告・証人尋問の必要性の意見書を出し、直前まで裁判官に面接を繰り返し、尋問の実現を迫ってきた。ところが、裁判所は、2019年1月18日、原告の意見陳述、代理人の準備書面の口頭陳述が終わった途端、「これで結審する。」と突然宣言した。原告は、忌避、抗告、弁論再開などあらゆる抵抗を試みた。抗議ハガキも集中した。

しかし、裁判所は、証人や原告から、真摯にその訴えを聞くことなく、4月26日に判決宣告を強行した。司法の基本的役割を放擲し、行政・立法に忖度し、予断に満ちた判決を書いた裁判官は全員栄転し札幌を離れていた。判決は、差止めを却下し、損害賠償は➀平和的生存権は具体的な権利ではない②原告の精神的苦痛は社会通念上受忍すべき限度にとどまる③生命身体財産の危害への恐怖・不安は、漠然・抽象的な不安感にすぎないとして請求を棄却した。驚くほどの空疎な内容である。北海道新聞は、社説で司法権の放棄と厳しく批判した。

3 当日は、濱田邦夫最高裁元判事への尋問で始まった。濱田証人は、2001年5月から5年間最高裁判事をつとめた。彼は2015年9月、安保国会の公聴会で、日本社会の民主主義の危機という深い洞察のもとに、安保法制は憲法違反であると証言した。その濱田証人は、開口一番「憲法改正手続きを経なければできないことをしたこと、閣議決定で解釈を変更したこと、安保法制は内容的にも手続き的にも違憲である」と明快に述べ、ご自身がかかわった「在外邦人選挙権略奪違憲判決」に触れ、「事件性に限界があるがその判断枠組みは一般的なもので安保法制の違憲性の判断枠組みについても適用できるものである」と立法行為も違法性の判断対象となることを是認された。

一方、裁判所の違憲立法審査権の行使について、「アメリカと比較すると、日本の司法件は謙抑的過ぎる。具体的事件性があり、憲法判断が必要であるならば裁判所は憲法判断すべきである。『47年の政府見解』は、一般的な日本語の読み方として集団的自衛権が認められる余地はない。本件訴訟で憲法判断をしないとしたら何時憲法判断をするのか。」と強調されていたのが印象的であった。そして、さいごに、「裁判所に訴えたいことは」という問いに「今回の訴訟でも司法が謙抑的であるとしたら三権分立の意味がなくなってしまう。権力を監視すべきメディアが機能しない今、司法権が頑張らなくてどうするのか。司法部の命綱、その土俵際で行使しないと独裁的制度の到来を許してしまう。」と証言を終えた。

4 私は、講演や原告拡大で、「過去に目を閉ざす者は、未来に対してもやはり盲目となる。」との演説で有名なヴァイツゼッカー大統領の次の言葉を度々引用し、説得してきた。「自由民主主義体制において必要な時期に立ち上がるなら、後で独裁者に脅える必要はない、つまり自由民主主義擁護には法と裁判所だけでは不足で市民的勇気も必要」

 今回、濱田証人の口から独裁体制を危惧する言葉が出てくるとは思わなかった。ただ、大統領が引用した「裁判所」は、残念ながら「司法の責務を放棄するな」と叱咤激励しなければならない裁判所ではない。

(東京安保違憲訴訟ニュースより)

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